一回はずしたボタンを別のシャツにかけなおす作業をしている。
―数年前、既に着せられていたシャツからボタンをはずし、命綱をつけているかつけていないかすれすれのところで、空を跳んだ僕は、どうなったかといえば、一回はずしたはずのボタンを別の布にかけなおそうとしている。
跳んだ先の大空には、滞空できるほどの空中要塞や基地を作ることはできなかったし、そして、その跳んでいる下の闇の深淵は、僕が跳ぶ前に思っていたよりはるかに深く危険なものだとわかったけれど、とりあえず僕はその深淵に吞まれてはおらず、とりあえずはたぶんどこかへ着地する。
着地した先は前より環境が良くなっているといいが、いずれにせよ、数年のうちにちゃんと力をつけて自分なりの空中要塞を作ろうというのが当面の目標になるだろう。
これが二十代の半ば大半をかけて僕がようやく握り掴んだ僕にとっての真実であり、ひとまずは深淵の闇に墜ちなかった自分のそれを肯定的に受け止めようとは思う。